臨床工学科

臨床工学技士とは、医師の指示のもとに生命維持管理装置の操作および保守管理を行います。生命維持管理装置は、人工心肺装置・人工透析装置・人工呼吸器などがあり、循環・代謝・呼吸を肩代わりするものをいいます。臨床工学技士は医学と工学の両方の知識を有する国家資格であり、日々進歩する高度医療機器を用いた診療・治療を安全に行うため、医療機器の専門家として操作・保守・管理を行います。また医師、看護師や他の医療技術者と連携し、チーム医療の一員として患者さんの治療に携わっています。

当院での役割

当院では、現在45名の臨床工学技士が在籍しています。業務内容としては、高度な医療機器を操作する臨床支援業務と、院内の医療機器の保守点検といった医療機器安全管理業務にあたっています。臨床支援業務は、透析センター、内視鏡センター、アイセンター、集中治療センター、手術医療センター、大動脈・血管センター、血管内治療センターにスタッフを派遣し、各業務とも24時間体制で緊急呼出しに対応できるようにしています。また、業務の質の向上のため、積極的に研修会・学会等に参加し、さらに臨床工学技士以外の資格取得に取り組んでいます。

ME機器管理

病院内で使用されている医療機器を中央管理にて安全に患者さんへ使用いただけるよう日々、点検・清掃・管理を行っております。輸液ポンプ250台・シリンジポンプ220台・人工呼吸器47台をはじめ、現場で使用される医療機器の医療安全体制を構築し安心安全な医療の提供に努めています。また、アイセンター・内視鏡センター・高気圧酸素治療室などへ人員の派遣をはじめ『新たな医療機器のある所に臨床工学技士あり』の精神で安全安心な治療環境が提供出来る様日々努力しております。

アイセンター

アイセンターで使用される手術医療機器の保守点検及び手術時の機器操作立ち合いにて業務を行っております。当院では、白内障手術装置・網膜硝子体手術装置・手術顕微鏡などの操作補助を行い、安心安全に手術を受けていただけるよう対応させていただいております。また、数年前より3D Visual Systemも導入され、より患者さんの目の状況を把握しやすくなり円滑に手術が進められるよう対応しております。

内視鏡センター

内視鏡センターに配属されている機器の保守管理業務、治療に使用した内視鏡スコープの洗浄消毒などの洗浄・感染管理をはじめ消化器内視鏡検査・治療補助業務を行っております。
上部内視鏡検査をはじめ下部検査・ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)DBE(小腸内視鏡検査)小腸カプセル内視鏡検査など現在対応スタッフが、日々の治療を円滑に進められるよう対応しております。

高気圧酸素治療

私達は、大気圧(1気圧)の環境で生活をしておりますが、より高い気圧(2気圧)の酸素を吸うことで、血液中により多くの酸素を取り込むことが出来ます。この作用を利用し、体の隅々まで酸素を行きわたらせて疾患を改善する治療を高気圧酸素治療と呼んでいます。適応疾患として、スポーツ外傷・重症軟部組織感染症・突発性難聴・一酸化炭素中毒に有効であり、医師の指示の元高気圧酸素治療装置の操作や保守管理を行っております。

透析センター

入院中の腎不全患者さんに対して行う血液透析、自己免疫疾患や肝臓の機能が低下した患者さんに対して血漿交換、血液内科の癌治療に対して末梢血幹細胞採取など様々な血液浄化療法を透析センターにて施行しています。これらの治療に欠かせない医療機器を患者さんに、安心して治療が受けてもらえるようによりよい環境の提供を心掛けています。 透析センターは、現在10床を有し1床は感染管理にて陰圧個室となっており、1日3クールの治療を行っております。業務も機器の保守管理から穿刺や患者さんの管理、返血までの血液浄化に関するすべての業務を行います。また、昨年より腎代替療法の選択を広げ血液透析以外にも腹膜透析の導入に関しても取り組みを始め、シャントPTAの補助など透析センターのあらゆる業務に対応すべくスタッフの教育を進めております。今後は、多職種と共同しチーム医療の醸成を行い患者さんへ適切な医療の提供に繋がるよう努力していく所存であります。

集中治療センター

当院では、重症患者を受入れるためにスーパーICU(特定集中治療室)28床・HCU28床を設置しています。これらの重症患者用の病床には、高機能の患者モニタリング機器や人工呼吸器、補助循環装置等の生命維持管理装置が設置されており、臨床工学技士は集中治療科医師の指示に基づき生命維持管理装置の機器操作・保守管理を行っています。また、スーパーICU・HCUでの患者搬送・リハビリ介助などの業務も看護師・理学療法士と共に従事しています。

(2023年度実績)
人工呼吸装着症例数 1042症例、
補助循環装置装着件数 ECMO:49件、IMPELLA:18件、IABP:43件
CRRT施行件数 759件

手術医療センター

手術室業務は16室(うちハイブリッド手術室3室)からなり、臨床工学技士は手術室内にある医療機器の点検やトラブル対応を行っています。また臨床支援業務としては人工心肺業務(3台保有)、清潔介助業務、術中神経モニタリング業務、ストラクチャーデバイス業務(TAVI等)、ダヴィンチ業務(3台保有)等を実施しています。手術室配属の臨床工学技士6名を中心に手術の安全かつ円滑な進行のため医療機器の安全性・信頼性の確保の為、医師・看護師と連携をとりながら日々業務に取り組んでいます。

人工心肺業務

心臓手術の際、一般的に心臓を止めて手術を行いますが、心臓が止まっている間、心臓と肺の役割を果たす人工心肺装置を操作し、患者さんの循環を維持する人工心肺業務があります。臨床工学科が発足する以前の1979年より行い、信頼される循環器専門施設の高度医療に対応すべく、24時間体制でいつでも臨床工学技士が立会い、安全で質の高い医療技術サービスを提供しています。年間約150-200件の心臓・大血管の手術時に人工心肺操作を行っています。

植込型補助人工心臓業務

2019年1月より植込み型補助人工心臓実施施設となりました。主な業務内容は、植込型補助人工心臓(iVAD) の外来、入院管理業務、iVAD新規植込み時の手術立ち合い、また患者さん、家族、職員に対してのiVAD取扱い説明業務などを行っています。認定士5人を中心に、iVAD患者さんが安心、安全な日常を送れるように医師、看護師、理学療法士など多職種と連携し日々業務にあたっています。

清潔介助業務

近年のタスクシフトに対応すべく、臨床工学技士による手術時の清潔介助業務を開始しました。ダヴィンチ症例やストラクチャー症例を中心に日々業務を行っています。

ダヴィンチ業務

手術支援ロボットであるダヴィンチは専門的な知識が必要とされる医療機器です。当院は3台(SP1台,Xi2台)のダヴィンチを保有しており、症例数も増加しています。医療機器の専門知識を有する臨床工学技士が、準備から手術中、手術後、メンテナンスのすべてに携わり、ダヴィンチを常に最善の状態で維持し、トラブル時も即座に対応するのが我々臨床工学技士の役割です。

術中神経モニタリング業務

術中神経モニタリングはMEP,SEP,ABR,VEP,CCEP,FREMAP,DNAP,D-wave,AMRなど多岐にわたり、神経機能の温存に重要な役割をはたしています。臨床工学科は、年間100例を超えるすべての症例に対応し、外科医、麻酔科医、看護師と意見交換しながら業務にあたっています。

SHD業務

ハイブリッド室で実施されるTAVIやMTEER、左心耳閉鎖(ウォッチマン)に臨床工学技士が携わっています。業務内容は各デバイスのローディングや緊急時対応が主な業務となり、SHDチームを中心に業務を行っています。

大動脈・血管センター

末梢血管内治療 EVT:Endovascular therapy

末梢血管内治療は、手や足、その他の体の末梢部位に存在する血管の疾患に対して行われるカテーテル治療です。動脈や静脈が狭くなったり詰まったりすることによって引き起こされる血流障害を改善するために行われます。昨今、EVTはデバイス・技術の進歩は著しく、それに従事する臨床工学技士も専門的な知識および技術が求められます。

当院のEVTの特徴

当院のEVTは全国有数の症例数を誇り(2024年 EVT件数:570件)、日本循環器学会の末梢血管内治療ガイドラインの副班長をされている飯田医師を中心に治療を行っております。最新のデバイス(日本で初めて使用されるデバイスなど)・新しい治療法の考案も行っており、本領域の医学の進歩にも大きく貢献しております。また多くの治験や他施設研究も積極的に行っており、臨床工学技士もその一員として貢献しております。また、心血管カテーテル治療学会(CVIT)の近畿地方会の役員が3人在籍しており、そのうち1人は日本臨床工学技士会の心血管カテーテル治療委員を務めております。

当院のEVTの業務内容
  • 清潔介助業務
    • セカンドおよびサードとしてEVT中の術者のサポート
  • 外回り
    • 血管内超音波(IVUS:Intravascular ultrasound)の操作・管理
    • 光学周波数領域画像診断(OFDI: Optical Frequency Domain Imaging)の操作・管理
    • 治療に関わる物品だし・管理
    • アテレクトミーデバイス・血栓吸引装置の操作・管理  
    • ポリグラフの操作・管理

低侵襲大動脈血管内治療

低侵襲大動脈血管内治療はカテーテルで大動脈にできた瘤や解離を治療するという方法です。以前は開胸・開腹で治療が行われておりましたが、現在は患者背景や病態により手術法は使い分けられております。低侵襲大動脈血管内治療は大きく2つの治療法に分けられます。1つは腹部大動脈瘤に対するEVAR(Endovascular Aneurysm Repair)、もう1つは胸部大動脈瘤、胸部大動脈慢性解離に対するTEVAR(Thoracic Endovascular Aneurysm Repair)です。またこれらを総じてステントグラフト治療と呼ばれます。

当院のステントグラフトの特徴

当院のEVARおよびTEVARは全国有数の症例数を誇り(2024年 EVAR件数:87件、TEVAR件数:76件)、世界初の解離性大動脈瘤に対するステントグラフト治療を行った倉谷医師、日本循環器学会の大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドラインの副班長をされている飯田医師を中心に治療を行っております。他院では治療困難な症例も多く行っており、またステントグラフト治療においても血管内超音波(IVUS)を併用するなどの技術も取り入れ、本領域における臨床工学技士の役割は大きくなっております。

当院のステントグラフトの業務
  • 清潔介助業務
    • 直接介助(手術室看護師の業務をタスクシフト・シェアで取り組んでいます)
    • サードとしてステントグラフト中の術者のサポート
  • 外回り
    • 血管内超音波(IVUS:Intravascular ultrasound)の操作・管理
    • 治療に関わる物品だし・管理
    • 複雑症例時におけるEVT関連業務
    • 麻酔器の準備・管理
    • 中心静脈カテーテル(CV)挿入時の介助

EVT、ステントグラフト業務実績

積極的に学会発表も行っており、2024年度で発表した末梢血管内治療の演題数は55演題です。また、多くの学会において表彰を受けております。

2024年 CVIT近畿地方会 メディカルスタッフ部門 最優秀賞
2024年 CVIT2024近畿地方会 メディカルスタッフ部門 優秀賞
2024年 日本臨床工学技士会総会 BPA選出
2024年 JET2024 ポスター部門 優秀賞
2024年 JET2024 口述部門 優秀賞
学科発表だけでなく、研究の質の高さは医学論文としても認められております。

  1. Kurata N, et al. Distal embolization of femoral nodular calcification after rotational atherectomy. Cardiovasc Interv Ther. 2024; 2024. doi: 10.1007
  2. Kurata N, et al. Factors associated with recurrence after drug-coated balloon therapy for femoropopliteal in-stent restenosis. Heart Vessels. 2024; Accepted
  3. Kurata N, et al. Effect of the Jetstream Atherectomy System Cutting Frequency on Luminal Gain” is ready for viewing. Cardiovasc Interv Ther. 2024; Accepted

発表したい、論文を書きたい、症例をいっぱい経験したい、という方には申し分ない施設です。

血管内治療センター

当院では虚血性心疾患や不整脈疾患、心不全に対する各種検査や治療を3部屋の血管撮影室で行っています。臨床工学技士としての心血管治療業務は2019年より開始しました。医師、看護師、放射線技師などの多職種の方々のサポートを得ながら、徐々に業務拡大しつつ専門性も高めてきました。現在は専任14名とで従事しています。

私どもは心臓カテーテル治療におけるチーム医療の一員として、安全性を保ちつつ少しでも良い臨床結果に寄与することを常に意識しながら、血管撮影室で扱われる様々な機器を操作し質の高い技術提供を行えるよう心掛け業務にあたっています。  また、治験研究や日本初症例も多く、日々の臨床業務で探索される臨床課題や臨床ニーズを研究テーマとして取り上げ、その成果を学会や論文として積極的に報告しています。医学の進歩としてはほんの僅かな歩みかもしれませんが、臨床工学技士の立場から心臓カテーテル領域を広く深く研鑽し、知見の積み重ねに貢献すべく学術活動も臨床業務と併せて行っています。

アブレーション業務

年間約600件のアブレーション治療携わっており、高周波・クライオ・パルスフィールドなど、様々なデバイスを使用しています。アブレーション業務では、高度な専門知識と技術が必要となり、その操作と安全を担保しています。臨床工学技士が2~3人体制で対応しており、アブレーションで使用する機器の準備・設定を行い、清潔野でのカテーテル準備も行っています。アブレーション中は、Labシステム(BardLab、CardioLab)・3Dマッピングシステム(CARTO・Ensite・RHYTHMIA)の操作を担当し、医師と緊密に連携しながら治療の精度と安全性を支えています。

心臓血管カテーテル検査・治療業務

心臓カテーテル検査・治療はカテーテルを用いて冠動脈や心臓の血管に関する病状を詳しく検査し治療する方法です。この手技には、さまざまな医療機器の精密な操作や知識が必要であり、臨床工学技士も専門的な知識および技術が求められています。 当院では心臓カテーテル検査・治療において清潔野でのセカンドやサードにも入っており、医療機器の操作や管理、患者バイタルのモニタリング、医師の治療補助を行い安全確保において重要な役割を果たしています。また、24時間常駐し、休日夜間の緊急対応も行える体制を整えています。

植込み型心臓電気デバイス CIEDs:Cardiac Implantable Electronic Devices業務

CIEDsとは心臓不整脈に対して治療を行う機器の総称でありその種類は様々です。

徐脈性不整脈に対するペースメーカ(PM)、心室細動・心室頻拍といった致死性不整脈に対する植込み型除細動器(ICD:Implantable Cardioverter Defibrillator)、心不全に対する心臓再同期療法(CRT:Cardiac Resynchronization Therapy)など多種多様でデバイスは日々目まぐるしく進化しています。近年では完全皮下植込み型除細動器(S-ICD)やリードレスペースメーカの登場もあり不整脈治療の一角として選択肢が豊富に発展しており、医師の診療のサポートを担う臨床工学技士は多様で複雑なデバイスに関して高度で専門的な知識が求められます。 当院ではCIEDs関連症例が約300件あり、CIEDsと分類されるデバイス全てのメーカーと機種を取り扱っています。各種メーカーにより特色があり、常に患者にとって最適なデバイスが選択される環境が整えています。症例数も豊富で、新規製品の登場の際は全国に先駆けて採用を目指しており先進医療への取り組みを積極的に行っています。また、当院では循環器内科と心臓血管外科の連携が強く、デバイスの植込みだけでなくシステム抜去手術も可能な数少ない施設であり高リスクな症例を万全の体制で実施しています。その他、遠隔モニタリングシステム(CardioAgebtPro Canon社)を用いたデバイス管理を行っており、送信されたデータに問題がないか確認をしています。2024年度現在、遠隔システムによって1000人程の患者をフォローアップしています。

取得資格一覧

透析技術認定士 9名 認定医療機器管理 2名 認定実習指導者 4名
体外循環認定士 11名 植込み型心臓不整脈デバイス認定士 5名 臨床検査技師 1名
3学会合同呼吸療法認定士 9名 JHRS認定心電士 1名 管理栄養士 1名
人工心臓管理技術認定士 6名 IBHRE(CDR認定) 1名 看護師 1名
臨床ME専門認定士 2名 第一種ME技術実力検定 3名 衛生工学衛生管理者 1名
日本高気圧潜水医学会専門技師 1名 心電図検定1級 3名 初級システムアドミニストレータ 1名
専門集中治療臨床工学技士 1名 心血管インターベンション技師 3名 2級ボイラー技士 1名
専門不整脈治療臨床工学技士 2名 日本アフェレシス学会認定技士 1名 X線作業主任者 1名
認定集中治療 3名 ICLSインストラクター 1名    
認定血液浄化 1名 腎代替療法専門指導士 1名