膝関節疾患に対する治療について

膝関節疾患に対する治療について

1.スポーツ障害・外傷 (担当:前、武)

①前十字靭帯損傷
ジャンプの着地やステップ中の急な切り返しなどで膝を捻った時に靭帯が断裂します。自然治癒は稀で、不安定なままスポーツを続けると軟骨が摩耗し若くして「変形性膝関節症」に進行するため、手術で靭帯を再建することが必要な外傷です。
関節鏡で靭帯付着部に正確に腱を移植し、正常靭帯の走行と張力を再現する手術を行います。また、後述の半月板を同時に損傷していることも多いため、関節鏡で半月板も詳細に観察し、損傷がある場合は靭帯再建術と同時に処置を行います。なお、この手術は学会が審査する技術認定制度があり、全国で認定医は110人だけですが、当院担当医もその認定医ですので、安心して手術を受けていただけると思います。入院は2週間弱で、退院後も通院リハビリを行い、スポーツ復帰は8〜10ヶ月程度を要します。

半月板損傷
半月板は大腿骨と脛骨の間にあり、関節軟骨を保護するクッションであり、損傷され異常な位置に挟まりこんで屈伸の妨げとなったり、痛みの原因となります。手術を要する損傷の場合は、極力縫合して半月板の温存に努めます。治癒が望めない損傷の場合は部分切除し、挟まりこんだりすることのないように治療します。いずれの場合も関節鏡を用い、縫合術の場合は2週間弱の入院が目安ですが、断裂の形態等で前後します。退院後も通院リハビリを行い、スポーツ復帰は6ヶ月程度要します。半月板切除術の場合は1週間程度の入院で、スポーツ復帰は早ければ1ヶ月前後です。現在増加の一途にある中高年スポーツ愛好家で内側半月板変性断裂と初期変形性関節症がある患者さんには、高位脛骨骨切り術と半月板切除術を同時に行い、変形があっても関節を温存しスポーツを継続できる治療を行います。

スポーツ整形外科について

スポーツ活動では様々な外傷や障害が起こります。一般的な治療では傷害が起こってからの対応となり、もとのパフォーマンスが得られない状況も多々あります。スポーツ医学においては傷害の予防、傷害が起こってしまったときの治療、そして復帰までのサポートが重要となります。
スポーツ医学センターでは従来の整形外科、リハビリテーション科に加え、脳神経外科、脳神経内科、内科、婦人科、歯科、薬剤部、看護部、栄養部などが参加し、様々なスポーツ選手に対してより多角的にサポートしていける情報提供、環境作りに取り組んでいます。

肩関節前方脱臼・亜脱臼とは

肩関節前方脱臼・亜脱臼はアスリートの肩関節手術の中で一番多くなっています。特にラグビーやアメフト、ボクシング、空手など体をぶつけることが多い競技では発生頻度が高くなってしまいます。何度も脱臼・亜脱臼を繰り返していると肩甲骨関節窩や上腕骨頭後方の骨が削れていってしまい、より脱臼しやすくなるとされ、手術加療が必要となることが多くなります。
以前は三角巾などでの内旋位固定が主流でしたが、再脱臼予防の科学的根拠はないとされ、固定しなかった場合と再脱臼率は変わらないとする報告もあります。現在では、外旋位固定が保存療法の第一選択肢と考えています。4週間外旋位装具で固定し、筋力トレーニングの後受傷後3ヶ月を目処に復帰を目指していきます。当院では野球選手の初回肩関節前方亜脱臼4名にこの治療を行いましたが、4名とも再脱臼なく競技を継続できています。ラグビー選手の初回肩関節前方脱臼・亜脱臼に対しても試みておりますが、18名中13名が再脱臼し、再脱臼しなかった5名のうち3名も競技継続に不安があるため、重要な試合を終えたあとに手術を希望されました。再発も手術もなく競技を継続できているのは2名のみで、コンタクトスポーツの場合は初回肩関節前方脱臼・亜脱臼でも手術を選択することも多いです。

関節鏡下肩関節唇形成術

脱臼・亜脱臼によって破れてしまった関節の袋を修復する手術です。関節鏡視下の手術となりますので、傷口はとても小さいです。ラグビーやアメフトなどコンタクトスポーツではない場合、再脱臼率は5−6%程度で、安定した成績が期待できます。競技復帰には6−8ヶ月を要します。
コンタクトスポーツの場合や、肩甲骨関節窩や上腕骨頭後方の骨欠損が大きい症例では再脱臼率が20%−33%と報告されており、再脱臼しない場合でももとのスポーツレベルに復帰できない頻度も高いため、なんらかの補強の手術が必要と考えています。

Remplissage法

上腕骨頭の後方骨欠損が大きい場合に、補強の手術として行います。この手術はあくまで補強ですので、上述の関節唇形成術も同時に行います。この手術も関節鏡視下に可能ですので、傷口は小さいものになりますが、上述の関節唇形成術よりも2カ所傷口が増えます。この補強により再脱臼率はかなり減っています。ただ、コンタクトアスリートに対する成績はあまり発表されていないためまだ未知な部分もあります。競技復帰には6−8ヶ月を要します。

烏口突起移行術(Bristow法、Latarjet法)

肩甲骨の上の方にある烏口突起を肩甲骨関節窩前方に移動する手術です。この手術もあくまで補強ですので、上述の関節唇形成術も同時に行います。固定の仕方によりBristow法とLatarjet法があります。Latarjet法はネジ2本で固定するため骨癒合率が高いですが、術後に烏口突起が吸収されてなくなってきてしまう症例が多発するため、現在はBristow法を主に行っています。
烏口突起移行術の場合、烏口突起による骨の補填に加えて、烏口突起に付着する共同腱(肘を曲げる筋肉)がsling effectといって、関節包の裏支えをしてくれるとされます。関節唇の修復、骨補填、sling effectと3つの効果により制動され、再脱臼率は非常に低く、競技復帰率が高い手術方法となります。競技復帰には4−6ヶ月を要します。移動した烏口突起が肩甲骨関節窩と骨癒合することがとても大切となります。ただ、前述のように烏口突起には共同腱(肘を曲げる筋肉)が付着しているため、術後骨が癒合していないうちに肘を曲げるような力を入れてしまうと烏口突起がずれてしまいます。また、許可前からダッシュをしていた症例でもずれてきたことがあります。骨癒合の速度には個人差がありますので、骨がつきにくい症例ではリハビリを予定より遅らせることもあります。烏口突起がずれると制動効果の一つがなくなってしまうので再脱臼率が高くなりますので、焦らずに指示にしたがってもらう必要があります。関節鏡視下で関節唇の修復はしますが、烏口突起の移動は直視下で行っていますので、肩の前面に3−5cmの傷ができることになります。希望があれば鏡視下烏口突起移行術も可能です。当院でも現在のところ38肩の実績があります。ただ、神経損傷発生率が高いとされており、積極的にはしておりません。直視下手術は現在225肩の実績がありますが、神経は完全に保護しながらの手術となりますので今までのところ発生症例はありません。烏口突起の骨癒合が得られなかった症例が15肩あり、そのうち4肩再受傷しており再脱臼率は1.5%となります。

  関節唇形成術 Remplissage法 直視下Bristow法 鏡視下Bristow法
関節唇の修復 あり  あり あり あり
傷口 3−4個(1cm大) 5−6個(1cm大) 前方に3−5cm 後方に1個 前方4個、後方1個 前方の一つは2cm大
復帰までの期間 6−8ヶ月 6−8ヶ月 4−6ヶ月 4−6ヶ月

肩関節後方亜脱臼とは

関節包の後方成分が破綻してずれてしまう病態
リハビリで症状が治まることが多く、肩甲骨周囲の筋力トレーニングが中心となります。様々なリハビリテーションプログラムを用意して、各選手の病態に応じて、トレーニングを提供しています。
疼痛のためリハビリがなかなか出来ない場合は、注射などで疼痛を軽減させてからリハビリをしてもらっています。
リハビリで筋力の改善が見られても症状が残る場合には手術の提案をします。
関節包を修復するだけの場合もあれば、肩甲骨関節窩後方に骨移植を行うこともあります。この手術は関節鏡視下に可能です。

投球障害肩とは

リハビリで症状が治まることが多く、肩甲骨周囲の筋力トレーニングが中心となります。様々なリハビリテーションプログラムを用意して、各選手の病態に応じて、トレーニングを提供しています。通院が困難な場合は1週間の入院で積極的にリハビリ加療するプログラムを用意しています。 疼痛のためリハビリがなかなか出来ない場合は、注射などで疼痛を軽減させてからリハビリをしてもらっています。 リハビリののちも症状が残る場合には手術の提案をすることになります。 

肩鎖関節脱臼とは

当院では積極的に手術はしておりません。手術をして時間をかけて競技復帰してもらっても再亜脱臼したり、疼痛が残ったりする症例が多い印象があるためです。再亜脱臼上方に脱臼している症例ではけいさつ病院式肩鎖関節脱臼装具を3週間装着して保存療法を行います。競技復帰は2−3ヶ月です。鎖骨が後方に転位している場合は整復が難しく、保存療法でも症状が残る可能性が高いとされるため手術を行います。烏口鎖骨靱帯の縫合と鎖骨肩峰靱帯の再建もしくは縫合を行います。装具固定が4週間で競技復帰は4−5ヶ月となります。