脊椎手術全般について

脊椎手術全般について

  1. 保存療法が主体であり、手術療法は治療の最終手段となります。当科は手術療法を担当しますので、保存療法につきましては御開業の先生方にお願いしています。
  2. 椎間可動性を温存するように努めています。脊椎固定を行う場合には固定範囲を最小限に留めています。
  3. 脊椎固定を行う場合には自家腸骨を用います。椎体間固定術では移植骨の補強材として骨親和性のあるハイドロキシアパタイトを併用することがありますが、金属やカーボンファイバーなどのスペーサーは使用しません。ただし胸椎、腰椎の後方手術では骨癒合完了までの補助としてpedicle screw固定などを併用します。
  4. 原則として頸椎、胸椎、腰椎手術とも手術の翌日から頚椎カラーまたは体幹コルセットを装着して歩行していただきます。
  5. 硬膜外麻酔を併用して術後疼痛を緩和させます。
  6. 深部静脈血栓予防装置を手術開始前から足部に装着します。
  7. 安全性向上のため超音波骨切り器を使用しています。

頸椎疾患

1. 頸椎症性脊髄症

 頸椎症による圧迫性脊髄症(頸椎症性脊髄症)は、進行すれば四肢麻痺をきたし、しかも自然緩解の可能性が少ないため、しばしば手術が必要となります。頸椎症性脊髄症の発症の背景には先天性または発育性の脊柱管狭窄があり、病巣が多椎間に及ぶことが多いため、後方からの脊柱管拡大術が頻用されます。当科では片開き式椎弓形成術(第2または第3頸椎から第7頸椎まで)を採用しており、当科での頸椎手術の大部分を占めます。椎弓形成術の短所として椎弓間の自然骨癒合がありますが、これを防ぐための処置を追加し、頸椎の可動性温存に努めています。頸椎カラーは3週間装着します。

2. 頸椎症性神経根症

 頸椎症による圧迫性神経根症(頸椎症性神経根症)は自然緩解の可能性が高く(骨棘そのものが縮小することはありませんが)、再発率も高くないので、症状が重度でない限りは手術適応とはなりません。手術方法の第1選択は前方固定術であり、頸椎カラーの装着期間は約6~8週間の見込みです。

3. 頸椎椎間板ヘルニア

 頸椎椎間板ヘルニアは頸椎症と同様に脊髄症と神経根症を引き起こすことがあり、頸椎症と同様な手術適応となりますが、ヘルニア腫瘤は骨棘と違って自然吸収されることがしばしばあるため、手術適応は限られます。単に痛みやしびれがあるだけでは手術適応にはならず神経の脱落症状があるかまたは麻痺が切迫している場合のみが手術適応となります。手術方法としては神経根症であれば前方固定術が第1選択となりますが、脊柱管が狭くしかも脊髄症を呈していれば、椎弓形成術(第3頸椎から第7頸椎まで)の適応があります。頸椎カラー装着期間は頸椎症の手術と同様です。

4. 頸椎後縦靭帯骨化症

 頸椎症性脊髄症と同様に、片開き式椎弓形成術を採用しています。除圧高位は症例ごとに決定します。頸椎カラー装着期間は頸椎症の手術と同様です。

胸椎疾患

1. 黄靭帯骨化症

椎弓切除を行い椎弓スペーサー(ハイドロキシアパタイト)を設置します。

2. 胸椎椎間関節症

胸椎椎間関節症による圧迫性脊髄症に対しては片開き式椎弓形成術を行います。

腰椎疾患

1. 腰部脊柱管狭窄症

 軽症例では手術適応となりませんが、神経脱落症状、歩行障害、激しい疼痛をきたす場合には手術適応となります。コルセット装着期間は、開窓術と椎弓形成術では3週間、椎間孔拡大術と固定術では6~8週間の見込みです。

1) 開窓術(部分椎弓切除術)
 黄靭帯の分布する範囲に限定して椎弓を切除するとともに、椎弓根の内縁を通過する矢状面に沿って椎間関節の内側を切除します。

2) 椎間孔拡大術
 椎間板の高さが減少すると、下位椎の上関節突起先端と上位椎の椎弓根との間隙が狭くなり、椎間孔が狭窄されることがあります。しばしば神経節が圧迫されるため激痛が生じ、安静によっても疼痛が軽減されにくいのが特徴です。神経根ブロック・造影とCTミエログラフィーの組み合わせにて診断可能となります。 MRI単独では診断することはできません。
 椎間関節を全切除することによっても除圧できますが、固定術を加える必要が生じます。椎間可動性を温存する方法として神経根の背側を限局的に切除し、椎間孔を拡大する方法があります。神経根除圧の後、骨切除部位の背側に自家腸骨を置き、骨切除部を修復します。

3) 固定術の追加
 原則として固定術は避けるようにしていますが、以下の場合は後側方固定術を追加し、pedicle screw固定を併用します。
a) 変性すべりを伴い、しかも椎間の過可動性があるもの。1度程度のすべりであり、椎間の過可動性のないものは固定術の追加はしません。
b) 変性側彎があり、単椎間の矯正・固定にて脊柱アライメントが著しく改善される見込みのあるもの

2. 変性すべり症

 ほとんどが第4腰椎の前方すべりであり、しばしば第3第4腰椎間の狭窄を伴います。過去には第4第5腰椎間の椎体固定術と第3第4腰椎間の開窓術で対応しましたが、術後10年未満の経過で第3第4腰椎間の再狭窄が頻発する傾向があったため、現在は固定術の併用を限定しています。開窓術単独では、下位椎体の上縁と上位椎弓とによる狭窄を解除し難いため、吊り上げ式椎弓形成術を追加します。

3. 分離症・分離すべり症

1) 分離部修復術
分離部修復術の利点は椎間可動性の温存です。椎間板変性の程度にかかわらず分離症と1度の分離すべり症であれば、分離部修復術で対応できます。神経症状があれば神経根除圧術を追加します。分離部修復術にはpedicle screwとhook-rodを使用し、腸骨からの海綿骨を分離部の背側に移植します。
参考文献:Kakiuchi M. Repair of the defect in spondylolysis. Durable fixation with pedicle screws and laminar hooks. J Bone Joint Surg Am. 1997 Jun;79(6):818-25.

2) 後側方固定術と神経根除圧の併用
2度以上の分離すべり症では、神経根除圧とpedicle screw固定を併用した後側方固定術を行います。

4. 腰椎椎間板ヘルニア

椎間板ヘルニアに対しては固定術を行いません。ヘルニア摘出にあたっては、ヘルニア腫瘤のみを摘出し、椎間板内の掻爬は行いません。
 1) 脊柱管内に脱出・突出したヘルニアに対しては、ラブ法または内視鏡視下手術(MED法)にて対応しています。
 2) 外側型椎間板ヘルニアでは、椎間孔拡大術と同じ経路にてヘルニアを摘出します。

脊椎の外傷

  1. 胸腰椎移行部の破裂骨折で、脊髄または馬尾の圧迫を伴うものに対しては、除圧術に脊椎固定術を併用します。損傷椎の上位2椎体と下位1椎体を固定範囲とし、下位の1椎体にはpedicle screwとhookの両者を設置します。上位2椎体に対しては、それぞれにpedicle screwを設置するか、またはpedicle screwと横突起hookを組み合わせて設置します。
  2. 腰椎の破裂骨折では、上位と下位の各1椎体を固定範囲とし、pedicle screwを設置します。