消化器外科 診療方針

 

 大阪警察病院消化器外科は食道がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、胆道がんなどの消化器がんや急性虫垂炎、胆石症、急性胆嚢炎、炎症性腸疾患などの炎症性疾患、腹部救急疾患、鼠経ヘルニアや肛門疾患などの一般外科疾患を中心に年間1,000例以上の手術を実施しています。手術以外にも消化器がんに対する化学療法や併存症をお持ちの患者さまに対する周術期管理、術後に対する栄養指導など、多角的な観点からより良い治療を提供できるように努めています。3名の副部長(浅岡忠史(肝胆膵)、文正浩(胃・食道)、高橋秀和(大腸))がそれぞれの専門領域を担当し、互いに連携、協力しながら診療を行っています。

 1990年代から他の施設に先駆けて腹腔鏡手術を行っており、単孔式腹腔鏡手術(Single Incision Laparoscopic Surgery:SILS)などの新しい術式を開発してきました。

 その経験と技術を活かして、現在はロボット手術も実施しています。ロボット手術は「da Vinci」という機械を使用して行われます。当院では最新式の「da Vinci Xi」が導入されています。執刀医が3Dモニターを見ながら、「da Vinci」の4本のアームに付けられた腹腔鏡カメラと3本の鉗子をコントロールしながら手術を行います。ロボットアームに取り付けられた鉗子が執刀医の手の動きに連動し、執刀医の手の動き以上の繊細さで手術を行う仕組みです。「da Vinci」を用いた食道がん、胃がん、直腸がん手術は、2018年4月より健康保険の適応対象となり医療費は通常の腹腔鏡下手術と同じです。
 患者さまごとに手術以外の治療も含めたベストの選択肢を提供できるように、消化器内科、放射線治療科、麻酔科などとの連携体制も整っています。
 また、今後もさらに良い治療を患者さまに提供すべく新しい治療法の開発にも取り組んでいます。

   
実際の単孔式腹腔鏡手術と術後の創部 da Vinci Xiによるロボット手術


▲トップへ戻る

それぞれの専門領域の特徴は、以下の通りです。

 

上部消化管(胃・食道) 担当:大森主任部長

治療方針

 上部消化管外科では、特に食道がんおよび胃がんの治療に注力しております。モットーは「あきらめない治療」です。Stage IV胃がんに対しても、化学療法とコンバージョン手術を組み合わせた集学的治療により、根治を目指してまいります。 また、先端ロボット手術センター長も兼任しており、手術支援ロボットDaVinci XiやSPを用いたロボット手術を中心に、より安全で質の高い手術を提供することをお約束いたします。
 胃がんの進行度に合わせて、他施設にないオプションをそろえて治療を行っています。胃切除術は進行がんや開腹歴のある症例に対しても腹腔鏡手術を行っており、特に早期がんに対しては臍部のみの手術創で行う単孔式腹腔鏡手術を行っています。

対象疾患

・胃がん
・食道がん
・胃接合部がん

単孔式腹腔鏡下胃切除術

 腹腔鏡下胃切除術は5~10㎜程度の穴からカメラと機器を入れ、お腹の中で操作を行う低侵襲な手術です。進行がんに対応できる施設はまだ少ないですが、当院では早くから導入し、ほとんどの胃切除を腹腔鏡手術で行っています。
 特に早期がんに対しては、さらなる低侵襲性、整容性を追求し、単孔式腹腔鏡下胃切除術を行っています。切り取った病変(胃がん)を取り出すための1つの穴だけで全ての作業を行います。臍に創を集約することで、手術創はおへそに埋もれてほとんど見えません。極めて「美容的に」素晴らしい手術であり、術後1週間程度で退院可能で費用も通常腹腔鏡手術と変わりません。

胃がんのロボット手術

 ロボット手術は直感的に操作できるだけでなく、関節による屈曲で手前の組織にダメージを与えることなく、手ブレ防止、立体画像視、手術操作の拡大・縮小機能など、ロボット独自の機能によって正確で繊細な操作が可能となるため、人が行う腹腔鏡手術よりも術後合併症のリスクが低いことがわかっています。

 当科では、1月8日に日本初(おそらく世界初)となる追加ポートを一切使用せず、純粋に1つの傷のみで行うダビンチSPによるPure単孔式ロボット胃切除術を実施いたしました。従来の報告では、単孔式+1ポート、もしくは+2ポートを追加したReduced Port Surgeryが主流であり、理由は技術的な難易度の高さに起因するとされています。

 当院は2009年に世界初の単孔式腹腔鏡下胃切除を実施して以降、単孔式手術の先駆けとして知られております。私は2014年から2024年6月まで大阪国際がんセンターにて年間300例の胃がん手術を行い、これまでにロボット手術を1000例以上経験してまいりました。単孔式胃がん切除術も500例以上行い、今回のPure単孔式手術を完遂できたのは、この経験の積み重ねによるものと考えております。

 1つの傷にこだわる理由は、患者様への負担を最小限に抑えたいという想いからです。外科医は、自分が行いやすい手術ではなく、患者様にとって優しい手術を提供すべきであるという信念を持っております。

 

栄養指導

 胃がんの手術を受けると手術から3か月で5-15%の体重が減少します。体重減少はQOLの低下、予後の悪化、術後化学療法の継続性の低下をきたすと報告されています。特に胃全摘例では体重減少が顕著なため、当院では胃全摘後3か月間、術直後からの栄養療法に加え、筋肉量や脂肪量のチェック、栄養士による食事量のチェックと指導を行っています。また術後や抗がん剤治療で食事が進まず低栄養をきたした場合の対応として栄養強化入院に取り組んでいます。

胃がんの治験、臨床研究

下部消化管(小腸・大腸) 

治療方針

 近年大腸癌の治療選択は多岐に渡り、個々の患者さまにきめ細やかな治療を提供しています。当院の大腸癌の手術件数は年間200例をこえ、その98%にロボット手術など低侵襲手術を取り入れています。お腹を切らずに経肛門的に直腸腫瘍を摘出するTAMISは全国最多です。直腸癌症例では、術前化学放射線療法を組み合わせて、極めて高い根治性と、機能温存した治療法を施行しています。

対象疾患

・無症状(がん検診)
・有症状(血便、貧血、腸閉塞など)の大腸癌(結腸癌、直腸癌)
・小腸癌などの腫瘍
・鼡径ヘルニア
・虫垂炎
・痔核、痔瘻、肛門脱などの肛門疾患
・腸閉塞、腸穿孔などの良性疾患

治療法のご紹介

肝胆膵

 肝臓がん、膵臓がん、胆道がんは消化器がんの中でも、最も悪性度が高く予後不良な疾患として知られています。これらの肝胆膵領域における疾患では、術前検査・診断に始まり、手術と周術期管理、そして再発予防のケアなど、すべての過程において高度な技術が必要とされています。当院では消化器内科と密に連携を行い、毎週行われる肝胆膵合同カンファレンスを通じて、患者さまに最も適した治療法を提供することを心がけています。
 また、当院は日本肝胆膵外科学会が認定する高度技能修練施設として認定されており、技術認定を取得した肝胆膵外科学会高度技能専門医が手術を行うとともに、周術期チームによる術後ICU管理を行い、質の高い医療の提供を目指しています。

低侵襲 肝切除・膵切除手術

 当院では腹腔鏡手術を積極的に導入しています。特に、肝切除の約60%以上を腹腔鏡下肝切除で行っており、膵がんに対する腹腔鏡下膵体尾部切除も多く施行し、その数は年々増加傾向にあります。

腹腔鏡下肝切除術
温存 腹腔鏡下膵尾部切除術

ハイリスク症例 切除不能症例に対する積極的治療

強度変調放射線治療

 心疾患を有する高齢者(80歳以上)や透析患者をはじめ、多くの併存疾患を有する患者さまに対しても、周術期チームを中心に各科と連携し、積極的に治療を行っています。また、肝静脈腫瘍栓や門脈内腫瘍栓を伴うような高度進行肝癌に対しても、外科治療を中心とした集学的治療に取り組んでいます。

 また、切除困難な膵がんに対しては術前に強度変調放射線治療(コンピューター制御で正常組織の照射線量を抑えつつ腫瘍部分に放射線を集中することにより高い治療効果が得られる新しい照射技術)を用いた化学放射線療法(GEM / nabPTX / IMRT)を行い、根治切除を目指す臨床試験を導入しています。

肝胆膵手術の限界の挑戦

 他院で切除不能と診断され積極的治療をあきらめかけた患者さまに対しても、病院の総合力を生かして諦めない治療を目指して日々努力を続けています。
 お困りの症例がございましたら、いつでもお気軽にご相談ください。

担当:肝胆膵外科 浅岡忠史

▲トップへ戻る

救急・一般外科(ヘルニア・虫垂炎など)

患者さん向けページはこちら

 ご紹介の有無にかかわらず救急外来を受診された患者さまに対しては、症状に応じて当日に種々の精査を行っています。手術が必要な場合にはそれぞれの疾患を専門とするチームによる緊急手術が可能です。全身麻酔下の緊急手術は急性胆のう炎や急性虫垂炎など年間約150例の緊急手術を施行しております。
 重篤な患者さまでもICU管理から、一般病棟での周術期チームや嚥下摂食チーム、NST(栄養サポートチーム)などによるリハビリテーションを行っています。また、当院の特徴である腹腔鏡手術を可能な限り行うことにより、患者さまが入院前の状態にまで早期に回復して退院できるように取り組んでいます。鼠経ヘルニアや腹壁ヘルニアなどの一般外科疾患に対しても単孔式腹腔鏡手術を中心に年間100例以上の手術を行っています。
 鼠経ヘルニアに対しては単孔式腹腔鏡下TEP法(Totally extraperitoneal repair:腹膜外腹膜前修復法)、鼠径部切開法を行い、腹壁ヘルニアに対しては直接縫合法、IPOM法(Intra Peritoneal Onlay Mesh)、Rives-Stoppa法、eMILOS(endoscopic Mini or Less-open Sublay Opetration)をヘルニアの大きさや全身麻酔の忍容性など患者さまの状態に応じて選択しています。

単孔式腹腔鏡下TEP法
Rives-Stoppa法(左2枚)、eMILOS法(右1枚)

 総合病院である当院の特徴を活かし、循環器系疾患や糖尿病などさまざまな合併症をお持ちの方にも安全に手術を行うことが可能です。

▲トップへ戻る