肝がんについて
肝臓は、体内の代謝や解毒、栄養の貯蔵など、生命維持に欠かせないさまざまな働きを担う重要な臓器です。肝がんは、この肝臓に発生するがんであり、進行すると肝機能の低下を引き起こすため、治療が難しくなることがあります。
日本の肝がんの罹患数は、大腸がん、肺がんについで11位(男性6位、女性14位 2021年)ですが、死亡数については全体で5位(男性5位、女性7位 2023年)となっています。これは、肝臓がんが他のがんに比べて「死亡率が高い」、厄介ながんととらえることができます。
肝がんの発生の大きな要因としては、以前からウイルス性肝炎(B型肝炎、C型肝炎)や飲酒との関連が知られています。
近年ではウイルス性肝炎の治療が進歩しており、特にC型肝炎についてはほとんどの場合、適切な時期に治療を受けるとほぼ完治できるようになっております。大切なのは肝硬変に陥る前に、あるいはなってしまっても早期の段階で治療を受けることです。
最近ではウイルスが原因の肝硬変は減少傾向ですが、脂肪性肝炎を代表とする、生活習慣や代謝の問題が原因となる「代謝性機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」が増加傾向にあります。そのため、肝硬変の患者さんの総数は少し減った程度です。
![]() 肝臓の位置 |
![]() 当院での肝硬変の成因の推移 |
肝がんの症状
肝臓は“沈黙の臓器”と言われるほど自覚症状に乏しい臓器です。そのため、健診で肝機能異常を指摘された場合や飲酒量が多い場合は、腹部超音波検査(エコー検査)でのスクリーニング検査が推奨されます。
肝がんに関しても、初期には自覚症状がほとんどありません。進行すると右上腹部のしこりや圧迫感、痛みが現れることがありますが、多くの場合、それ以前に肝機能の低下により黄疸や腹水、むくみなどが現れます。
肝がんの早期発見には、健診での肝機能に異常がないかをチェックすることが大切です。異常があれば、かかりつけ医での採血再検査や腹部超音波検査が推奨されています。
| 健康診断などの血液検査で肝機能を示すALT値がもしも30を超えていたら、 慢性肝臓病(CLD)が隠れているかもしれません
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肝がんの診断方法(検査方法)
腹部の超音波検査(エコー検査)で肝臓に腫瘍の可能性があると指摘された場合は、より詳しく調べるために「造影CT」や「MRI」といった精密検査を行います。
これらの検査では、肝臓の腫瘍にどのように血液が流れているかを詳しく調べて、がんかどうかを診断します。また、肝硬変と診断された患者さんには、病気の進行や肝臓がんの早期発見のために、半年に1回の腹部超音波検査と血液検査がガイドラインで推奨されています。
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肝がん当院実績(初発肝がん症例)
| 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 肝細胞癌 | 70 | 59 | 63 | 49 | 39 |
肝がんの治療方法
肝がんは肝硬変などの病気を背景に、肝機能が低下している場合が多いため、がんの大きさ、場所、転移の有無などの一般的な情報だけでなく、「肝予備能(肝臓の機能がどのくらい保たれているかを示す指標)」も考慮した治療法の検討が必要です。
また、肝がんは治療を行っても肝臓内の他の部位に再発することが多くあります。これを「異所性再発」や「異時性再発」と呼び、何度も治療を繰り返すことが多いため、複数の治療法を組み合わせて、先を見据えた治療も必要となります。
当院ではガイドラインを参考にしながらも、可能な限り切除やラジオ波焼灼術(RFA)など根治度の高い治療を目指してしています。

① ラジオ波焼灼術(Radiofrequency Ablation:RFA)
皮膚の上から超音波で確認しながら、直径約1.5mmの細い針を肝臓の腫瘍の中心に刺し、ラジオ波という電気の力を使って熱を発生させ、腫瘍を焼いて壊す治療です。
この治療は、他の肝臓がんの治療と比べて患者さんの身体への負担が少ないのが特徴です。特に腫瘍の大きさが3cm以下であれば、手術と同じくらいの効果が期待でき、根治も可能です。
当院では、腫瘍が横隔膜のすぐ下や腸などに近い場所にある場合や、超音波で観察困難で治療を断念せざるを得ない症例でも、人工的に胸やお腹に水を入れて腫瘍を見やすくしたり、造影剤を使ったり、CT画像と超音波を組み合わせてリアルタイムで観察する技術(Image Fusion)などを積極的に利用して治療を行っています。
また、がんが肝臓の血管に広がっている場合(脈管侵襲症例)や、他の臓器に転移している場合でも、放射線治療や薬による治療を組み合わせて、積極的に根治治療を行っています。
| 【ラジオ波焼灼術(RFA)の症例】
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この治療は全身麻酔が不要で、身体への負担は非常に少なく安全ですが、一時的に痛みを感じることがあり(通常は数分〜10分程度)、一部の患者さんにとって苦痛です。そのため、当院では鎮静剤と鎮痛剤を併用することで、できるだけ苦痛を軽くするようにしています。
②肝切除
肝切除は、肝臓にできたがんを外科的に取り除く治療法です。がんの位置や大きさ、肝臓の機能などを総合的に判断して行われます。当院では、体への負担が少ない腹腔鏡・ロボット支援下手術を積極的に導入しており、肝切除の約80%以上を腹腔鏡・ロボット支援下手術で実施しています。
腹腔鏡手術は小さな傷で済むため、術後の痛みが軽く、回復も早く、入院期間も短くなる傾向があります。安全性にも配慮しながら、患者さん一人ひとりに合った治療を提供しています。

③肝動脈化学塞栓術(transcatheter arterial chemoembolization:TACE)
肝がんの特徴は、血液をたくさん必要とする「多血性腫瘍」であることです。がんが大きくなるにつれて、腫瘍は肝臓の動脈からより多くの血液を受け取り、正常な肝臓の部分よりも多くの栄養や酸素を奪うようになります。
この治療は、足の付け根(太ももの付け根)の動脈から細い管(カテーテル)を入れ、肝臓のがんに血液を送っている細い動脈まで進め、そこから抗がん剤と血流を止める薬(塞栓物質)を流すことで、がんに届く血液を遮断し、がん細胞を死滅させる方法です。
この治療のメリットは、がんの大きさに関係なく、複数のがんを同時に治療できることです。
| 【肝動脈化学塞栓療法(TACE)の症例】
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④全身薬物療法
この治療は、手術や局所的な治療(ラジオ波治療やTACEなど)が難しい、進行した肝がんの方に対して行うものです。
肝がんは、がん細胞が成長するために新しい血管を作ろうとする「血管新生」という働きを持っています。この治療では、その働きを抑える分子標的薬と、体の免疫力を高めてがん細胞を攻撃しやすくする免疫チェックポイント阻害薬という2種類の薬を使います。これらは単独で使うこともありますし、組み合わせて使うこともあります。
治療を受けられるのは、肝臓の機能がある程度保たれている方(Child-Pugh分類A)です。薬は飲み薬や点滴の形で投与されますが、いずれも外来通院で治療を行います。
当院での肝がんの治療実績
| 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | |
|---|---|---|---|---|---|
| ラジオ波焼灼術(RFA) | 58 | 67 | 74 | 68 | 33 |
| 腹部アンギオ(TACE等) | 40 | 14 | 18 | 16 | 23 |
| 薬物療法導入 | 28 | 25 | 21 | 31 | 17 |
| 手術(肝切除) | 32 | 31 | 23 | 15 | 25 |
当院の治療の特徴
当院では、肝胆膵がんに対し、消化器内科と消化器外科合同で毎週カンファレンスを行い、治療方針を相談しています。
一般的に肝がんは中期的に治療を繰り返し行うことが多く、消化器内科、消化器外科や放射線科、緩和ケア科などとも連携し、集学的な治療(複数の治療を行うこと。例えばTACEを施行しサイズを縮小させてから根治的RFAを行う、全身薬物療法を行いつつ治療抵抗性の一部病変にはTACEを行う、全身化学療法で腫瘍縮小させて外科手術を行う、など)を積極的に行っています。
特に最近の化学療法の進歩により、診断時手術不能と判断される症例でも化学療法が奏功すると外科的切除や局所治療(RFAなど)が可能となる症例が増えてきました。これらを“コンバージョン“治療と呼びますが、当院でも積極的にコンバージョンを狙った治療を行っております。





