胃がんについて
日本では、胃がんは大腸がん・肺がんに次いで多く、がんの中で3番目に多い病気です(2020年時点:男性4位・女性4位)。また、亡くなる方の数でも4番目に多く(2023年時点:男性3位・女性5位)、今でも注意が必要ながんのひとつです。
胃がんの大きな原因のひとつに「ヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)」という細菌があります。ピロリ菌に感染すると、長い時間をかけて胃の粘膜が弱り、「萎縮性胃炎」という状態になり、そこから胃がんができることがわかっています。
![]() ピロリ菌の感染により胃がんが発生した図 |
最近では、薬でピロリ菌を取り除く「除菌治療」が広く行われるようになり、そのおかげで胃がんになる人は少しずつ減ってきています。
ただし、胃がんは初期のうちは自覚症状がほとんどありません。症状が出てからでは進行していることも少なくないため、早期発見のためには定期的な検診がとても大切です。
胃がんは、早期に見つけて治療すれば治る可能性が高い病気です。40歳を過ぎたら、胃カメラやバリウム検査などの検診を受け、ピロリ菌の有無を確認することが予防につながります。
胃がんの症状
胃がんの初期には、お腹の不快感や食欲低下、胸やけなどの症状が出ることがあります。しかし、早い段階では自覚症状がほとんどなく、かなり進行しても症状が出ない場合も少なくありません。そのため、バリウム検査や内視鏡検査による検診で見つかるケースも多くあります。
がんが進行すると、胃(みぞおち)の痛みや不快感、食欲低下、嘔吐、全身のだるさ(倦怠感)、黒い便(黒色便)などの症状が現れることがあります。
胃がんの診断方法(検査方法)
胃がんは、早期に発見できれば治療の選択肢が広がり、予後も大きく改善します。当院では、正確かつ迅速な診断を行うために、内視鏡検査をはじめとするさまざまな検査体制を整えています。ここでは、当院で行っている胃がんの診断方法についてご紹介します。
当院の胃カメラ検査(上部消化管内視鏡)について
当院は、日本消化器内視鏡学会の認定指導施設として、多くの胃カメラ検査を行っており、大阪府内でも有数の実績があります。
胃がんの患者さんでは、吐血や下血、強いお腹の痛みなどが突然起こり、救急での受診が必要になることがあります。当院では、このような緊急時にもすぐ対応できる体制を整えており、昼夜を問わず迅速に内視鏡検査を行っています。
検査では最新の内視鏡機器を使用し、空気ではなく炭酸ガスで胃をふくらませることで、検査後のお腹の張りを軽減しています。また、ご希望に応じて鎮静剤を使った検査にも対応しており、できるだけ「楽に受けられる」検査を心がけています。
![]() 内視鏡機器 |
![]() 内視鏡検査の様子 |
さらに当院では、以下のような先進的な観察方法を組み合わせ、胃がんの広がりや深さを正確に診断しています。
| 狭帯域光観察(NBI) | 粘膜の細かい血管や模様を鮮明に映し出す特殊な光を使用し観察します |
|---|---|
| 拡大内視鏡 | 病変部を拡大し、より詳しく観察します |
| 超音波内視鏡(EUS) | 内視鏡に超音波機能を加え、胃の壁や周囲の臓器を詳しく調べます |
さらに、CT・MRI・PETなどの画像検査も組み合わせ、内科・外科の医師が合同でカンファレンスを行い、患者さん一人ひとりに最適な治療方針を決めています。
当院の上部消化管内視鏡検査数の推移(カッコ内は緊急内視鏡件数)
| 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 検査数 | 7301 (914) |
7613 (937) |
7401 (858) |
7249 (764) |
7084 (831) |
単孔式審査腹腔鏡検査について
|
胃がんは、胃の一番内側にある「粘膜」という部分から始まります。がんが進行すると、徐々に胃の壁の外側にある「漿膜」まで広がっていきます。 がんが漿膜まで達すると、がん細胞がお腹の中(腹腔)にこぼれ落ちることがあります。こぼれたがん細胞は、腹膜(内臓を包む膜)や腸の表面に付着して増えることがあり、これを腹膜播種性転移といいます(図の白い結節がその例です)。 |
![]() 腹膜播種性転移 |
腹膜播種性転移がある場合、治療の基本は化学療法(抗がん剤による治療)となります。そのため、正確に診断することが、より良い治療方針を決めるうえでとても大切です。しかし、CTやPETといった画像検査だけでは、はっきり診断できないこともあります。そこで実際にお腹の中を直接観察するために行われるのが、審査腹腔鏡検査です。
当院では、患者さんの体への負担をできるだけ少なくするために、おへそを小さく切開する「単孔式」の方法で検査を行っています。
胃がんの治療方法
胃がんの治療は、がんの進行度や患者さんの全身状態に応じてさまざまな選択肢があります。当院では、内視鏡的治療から外科的手術、化学療法まで幅広い治療法を提供しており、患者さん一人ひとりに最適な治療を目指しています。ここでは、当院で行っている内視鏡的治療についてご紹介します。
内視鏡的治療
胃がんの大きさや形、組織のタイプによっては、内視鏡による治療で根治(完全に治すこと)が可能な場合があります。当院では、そうした病変に対して積極的にESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)を行っています。
ESDの対象となるのは、以下のような病変です。
- 長さ2cm以下で潰瘍や瘢痕のない(UL0)粘膜内がん(cT1a)で、分化型のがん
- 長さ2cmを超えるUL0のcT1a分化型がん
- 長さ3cm以下で潰瘍のある(UL1)cT1a分化型がん
- 長さ2cm以下でUL0のcT1a未分化型がん
これらの病変は、リンパ節への転移のリスクが非常に低く、ESDによる治療が適しているとされています。
胃がんに対するESDの入院期間は約1週間で、体への負担が少ない治療(低侵襲)として、短期入院での根治を目指しています。また、全身の状態やご高齢などの理由で手術を避けたい方に対しても、症例によってはESDによる治療が可能です。
当院では、早期胃がんの内視鏡治療のほとんどをESDで行っていますが、病変の大きさ・部位・形状・患者さんの体の状態によっては、EMR(内視鏡的粘膜切除術)を選択する場合もあります。
① 内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic submucosal dissection; ESD)
ESDは、胃がんなどの病変を内視鏡で切除する治療法です。病変の下にある「粘膜下層」に生理食塩水などを注入してふくらませた後、電気メスを使って病変を丁寧に剥がしていきます。
この治療には高い技術が求められますが、当院では経験豊富な消化器内科医が担当し、安全かつ効率的な治療を行っています。
ESDでは、病変の周囲の正常な粘膜と、病変の下にある粘膜下層を含めて一括で切除するため、がんが胃の壁の中でどのくらい広がっているかを正確に調べることができます。これにより、リンパ管や血管にがんが入り込むことによるリンパ節や他の臓器への転移のリスクを正しく評価することが可能になります。
当院では、大きな病変や瘢痕部など、難易度の高い症例にも対応可能で、患者さんの状態に応じて全身麻酔下でのESDも行い、安全な治療を心がけています。
![]() ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)のイメージ図 |
ESDの内視鏡画像 |
当院における早期胃癌に対する内視鏡治療数の推移(ESD件数)

| 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | |
|---|---|---|---|---|---|
| ESD件数 | 111 | 108 | 115 | 135 | 135 |
② 内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic mucosal resection; EMR)
EMRは、内視鏡を使って胃がんなどの病変を切除する治療法です。ESDと同様に、まず病変の下に薬液を注入して粘膜を持ち上げます。その後、スネアと呼ばれる輪状のワイヤーで病変の周囲を包み込むように絞り込み、電気で熱を加えて切除します。
EMRは、ESDに比べて治療時間が短く、ESDでは治療が難しい部位でも行える場合があります。そのため、全身状態が悪い方や、病変が小さい場合、ESDが行いにくい場所に病変がある場合などに選択されます。
![]() EMR(内視鏡的粘膜切除術)のイメージ図 |
胃がんの外科的治療について
胃がんの治療では、がんがある部分を含めて胃を切除する「外科的治療(手術)」が基本となります。さらに、がんが周囲のリンパ節に広がっている可能性があるため、胃だけでなく、周囲のリンパ節も一緒に切除(郭清)することが重要です。
手術の種類
胃のどの部分にがんができたか、どのくらい深く進んでいるかによって、切除の範囲が決まります。
- 胃全摘術:胃をすべて切除する手術
- 幽門側胃切除術:胃の出口側(下部)を切除する手術
- 噴門側胃切除術:胃の入口側(上部)を切除する手術
![]() 術式別の切除範囲 |
手術の方法
当院では、患者さんの体への負担を少なくするために、腹腔鏡下手術やロボット支援下手術を基本としています。
- 腹腔鏡下手術:小さな切開からカメラや器具を入れて行う手術
- ロボット支援下手術:高精度なロボットを使用し、より繊細で安全に行う手術
これらは開腹手術と比べて、痛みが少ない、出血量が少ない、傷あとが小さく目立ちにくい、回復が早いといった利点があり、ガイドラインでも推奨されている標準的な治療法です。
ただし、がんが他の臓器に広がっている場合や、リンパ節転移が広範囲に及ぶ場合には、開腹手術が必要となることもあります。
当院のロボット手術体制
当院では、より安全で精密な手術を行うために、最新の手術支援ロボットを導入しています。
| ダビンチXi | 世界的に広く使われている標準モデルで、多くの臓器に対応可能。安定した操作と確実な治療を提供します。 |
|---|---|
| ダビンチ5 | 最新世代のモデルで、従来機に比べて処理能力が大幅に向上。触覚フィードバック機能を備えており、より繊細で安全な操作が可能です。 |
| ダビンチSP | 1か所の小さな切開から手術を行う「単孔式」専用モデル。体への負担がより少なく、究極の低侵襲性を追求した次世代のシステムです。 |
![]() ダビンチXi |
![]() ダビンチ5 |
![]() ダビンチSP |
これらの複数のロボットを備えることで、患者さんの病状や希望に応じて、最も適した機種と術式を選択できる体制を整えています。
当院は、ロボット手術の分野で全国的にも先進的な取り組みを行っており、より安全で患者さんにやさしい治療を提供いたします。
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当院の取り組み
当院では、腹腔鏡やロボットを用いた最新の手術を積極的に取り入れ、患者さんの体への負担を減らしつつ、安全性と治療効果を両立させることを目指しています。さらに、がんの状態に応じて内科・外科・放射線科の医師が協力して治療方針を決定し、患者さん一人ひとりに最適な医療を提供しています。
進行胃がんに対する治療について
進行した胃がんで、大きなリンパ節転移がある場合や、大動脈周囲のリンパ節に転移している場合、あるいは他の臓器にがんが広がっている場合には、まず術前化学療法(手術前の抗がん剤治療)を行うことがあります。これは、がんを小さくしたり進行を抑えたりしてから、手術を安全かつ効果的に行うためです。
手術で切除した胃やリンパ節は、病理検査に提出してがんの深さやリンパ節転移の有無などを詳しく調べます。その結果、ステージⅡやⅢと診断された方には、再発を防ぐ目的で術後補助化学療法を行います。
術後補助化学療法は、原則として外来に通院しながら1年間継続して行います。その際に出やすい副作用には、以下のようなものがあります。
| 吐き気や食欲不振 | 吐き気止めの薬を使い、食事内容を工夫します。 |
|---|---|
| 手足のしびれ | 症状の程度に応じて薬の量を調整します。 |
| 倦怠感(体のだるさ) | 休養の取り方を工夫し、無理のない生活をサポートします。 |
| 下痢や便秘 | 整腸剤の使用や食事指導で改善を図ります。 |
当院では、こうした副作用に対してきめ細かい調整とサポートを行い、できるだけ安心して治療を続けられるよう体制を整えています。
化学療法
胃がんが進行している場合や、手術後の再発予防、再発後の治療として、抗がん剤による化学療法が重要な選択肢となります。当院では、患者さんの全身状態や生活背景に応じて、個別化された薬剤選択と副作用対策を行いながら、安心して治療を継続できる体制を整えています。
当院における化学療法(抗がん剤治療)
当院で行う化学療法(抗がん剤治療)は、最新の胃がん診療ガイドラインに基づきながら、患者さん一人ひとりの状態に応じて、きめ細かいケアを行っています。
治療の流れ
抗がん剤を初めて使用する場合や薬剤を変更する場合は、原則として入院で治療を開始し、副作用の有無をしっかり観察します。その後、外来での継続が可能と判断された方には、外来化学療法センターでの日帰り治療(注射薬を使用する場合)を行っています。
また、必要に応じて点滴治療を安定して受けられるように、「ポート留置」も行い、スムーズで継続的な治療につなげています。
ポート留置とは
抗がん剤治療を安全に続けるために、必要に応じて「ポート留置」を行います。ポートは皮膚の下に埋め込む小さな器具で、カテーテルを通して血管につながっています。これにより毎回針を血管に刺す必要がなくなり、点滴治療をスムーズかつ安定して行うことが可能になります。長期間の治療にも対応でき、外から目立ちにくいのも特徴です。
サポート体制
治療中に痛みや吐き気などの症状が強い場合には、緩和ケア科と連携し、苦痛の軽減に努めています。医師・看護師・薬剤師が協力し、安心して治療を継続できる体制を整えています。
最新の治療への取り組み
当院では、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を含めた、バイオマーカーに基づく個別化治療を積極的に導入しています。さらに、先進医療や臨床試験(治験)にも取り組み、最新の治療法を患者さんにいち早く届けられるよう努めています。
当院の治療の特徴
当院における胃がん治療の特徴
近年、胃がんの治療はめざましく進歩しています。当院では、消化器内科・消化器外科・放射線科・緩和ケア科など複数の診療科が連携し、患者さん一人ひとりに合わせた集学的治療(チーム医療)を行っています。
根治切除が可能と判断された場合には、内視鏡による切除や外科手術を行います。一方、診断時に根治切除が困難と考えられる場合でも、化学療法(抗がん剤治療)が可能な患者さんにはまず化学療法を導入し、その後に切除可能となればできる限り手術を行うという集学的治療を実践しています。
さらに、2025年より当院では「VSP外来」(胃がんを中心とした専門外来)を開設しました。この外来では、胃がんと診断された患者さんに対し、初診時に必要な検査を集約することで通院回数を最小限に抑え、最速・最短で術前検査から手術治療まで進められる体制を整えています。










