卵巣がん

卵巣がんについて

卵巣は、子宮の左右に1つずつある小さな臓器で、女性の体の中で卵子を作る役割を持っています。卵巣にできる腫瘍を「卵巣腫瘍」と呼び、腫瘍細胞の悪さ(悪性度)によって、以下の3つに分けられます。

  • 良性(体に害を及ぼさないもの)
  • 境界悪性(良性と悪性の中間)
  • 悪性(がん)

また、腫瘍ができるもとになった組織によって以下の3つのタイプに分けられます。

上皮性腫瘍じょうひせいしゅよう 卵巣の表面を覆う上皮細胞にできる腫瘍
胚細胞腫瘍はいさいぼうしゅよう 卵子になるはずの生殖細胞が腫瘍化したもので、10代から30代の若い女性に多い
性策間質性腫瘍せいさくかんしつせいしゅよう 卵巣の中にある、ホルモンを作る細胞からできる腫瘍

卵巣がんの約90%が上皮性の卵巣がんで、その半分は漿液性しょうえきせいがん」というタイプのがんです。
最近の研究結果から、漿液性がんは卵巣ではなく、卵管の細胞から発生していると考えられており、漿液性がんを発生する卵巣がん・卵管がん・腹膜がんは同じ病気して扱われており、治療ガイドラインも1つにまとめられています。

卵巣がんの現状

日本では、卵巣がんにかかる女性の数が増えており、毎年約13,000人が卵巣がんを発症し、約5,000人が亡くなっています。これは、婦人科系のがんの中で最も死亡者数が多いがんです。
その理由としては、初期にはほとんど症状がない、進行が早いといった特徴があり、半数以上の患者さんが進行した状態で発見されています。

遺伝との関係

近年、卵巣がんの発症にはBRCA遺伝子の変異相同組換え修復欠損(HRD)の状態が関与していることが証明され、卵巣がん、とくに漿液性がんの患者さんの約14%にBRCA遺伝子の変異が見つかっています。また、これを含むHRD状態を約半数の患者さんに認めることが分かっています。このような遺伝的な特徴を持つ患者さんには、分子標的薬であるPARP阻害薬の治療効果が期待されています。

卵巣がんの症状

卵巣腫瘍は、骨盤の深い場所にできるため、初期にはほとんど症状がありません。そのため、多くの患者さんは、腫瘍があることに気づかずに過ごしています。しかし、腫瘍が大きくなったり、お腹の中に水(腹水)がたまるようになると、次のような症状が現れることがあります。

  • お腹が張る感じ(腹部膨満感)
  • 下腹部の痛み
  • 尿が近くなる(頻尿)
  • 便秘
  • 足のむくみ

 

これらの症状は、腫瘍が周囲の臓器を圧迫することで起こります。
また、卵巣腫瘍が破裂したり、ねじれたり(茎捻転けいねんてん)すると、突然の激しい腹痛が起こることがあります。このような場合は、すぐに医療機関を受診する必要があります。

子宮内膜症の一種である「卵巣チョコレート嚢胞のうほうが原因となって発生する卵巣がんには、明細胞がんや類内膜がんといったタイプがあります。

これらの卵巣がんは、定期検診で行う超音波検査によって発見されることがあります。検査では、卵巣チョコレート嚢胞の中に腫瘍の塊(充実部位)が現れてくることで、卵巣がんが疑われ、診断につながります。

卵巣がんの診断方法(検査方法)

卵巣がんは、お腹の中の深い場所にできるため、子宮がんや胃がん、大腸がんのように、手術前に確定的に「がん」と診断することが難しい病気です。そのため、超音波検査・CT検査・MRI検査などの画像検査で卵巣がんの疑いがあると判断された場合には、手術を行って腫瘍を取り出し、病理検査(顕微鏡で詳しく調べる)を行うことで、がんかどうかを確定します。

手術前に診断できる場合

以下のような検査でがん細胞が確認された場合には、手術前でも卵巣がんと診断できることがあります。

腹水細胞診ふくすいさいぼうしん お腹にたまった水(腹水)を細い針で抜き取り、がん細胞が含まれているかを調べる方法
穿刺吸引細胞診せんしきゅういんさいぼうしん 体の表面近くのリンパ節に転移している場合、細い針で細胞を採取してがん細胞の有無を調べる方法


また、卵巣は、胃・大腸・乳腺など他の臓器からがんが転移しやすい場所です。そのため、画像検査などで腫瘍が見つかった場合には、卵巣がんの手術を行う前に、
胃や大腸の内視鏡検査乳腺に対する精密検査などで異常がないことを確認することもあります。

がんの進行度(ステージ)を決めるための検査

卵巣がんの治療方法は、がんの広がり具合(進行期)によって大きく変わります。そのため、治療開始前にさまざまな検査を行い、進行期を判断します。最終的な進行期は、手術で取り出した臓器や組織の病理検査によって決定されます。

進行期を判断するためには、以下の検査を組み合わせて行います。

婦人科的診察 内診・超音波検査などの基本的な診察で、がんの広がりを確認します。
画像検査 CT・MRI・PETなどを用いて、がんの進行度や他臓器への影響を調べます。
内視鏡検査(必要時) 泌尿器科・消化器内科に依頼し、膀胱や直腸への浸潤の有無を確認します。

内診の様子

MRI検査の様子

内視鏡検査の様子

ただし、卵巣がんは、Ⅲ期・Ⅳ期といった進行した状態で見つかることが多く、腹水が大量にたまっていたり、血栓症などの合併症がある場合には、手術が難しいこともあります。そのような場合には、腹水細胞診によるがん細胞の確認と画像診断のみで臨床的な進行期を判断し、抗がん剤による治療を先に開始することがあります。

血液検査による補助的な診断

血液検査では「腫瘍マーカー」と呼ばれる、がんの種類によって血液中に現れる特有の物質を調べます。卵巣がんの場合には、CA125・CA19-9・CEA・HE4・TFPI-2などの腫瘍マーカーを測定します。

ただし、この検査だけでがんがあるかどうかを確定することはできません。がんがあっても数値が上がらないことがあり、逆にがんがなくても、体質や良性の病気などで数値が高くなることもあるため、がんの診療においてはあくまでも補助的な検査方法して用いられます。

卵巣がんの治療方法

治療方法は、各がん治療ガイドラインで推奨されている進行期に応じた治療方法、患者さんの年齢や持病などの体の状態、そして患者さんご自身の希望などをふまえて検討し、最終的に決定します。

卵巣がんは抗がん剤が比較的よく効くがんなので、治療は手術療法と抗がん剤治療を組み合わせて行う場合がほとんどです。

手術療法について

卵巣がんの手術では、まず卵巣腫瘍を切除して手術中に病理組織検査を行い、悪性・境界悪性・良性の診断を行います。卵巣がんと診断された場合は、以下のような手術が標準治療となります。

  • 子宮と両側の卵巣・卵管の摘出
  • 大網だいもう(胃の近くにある脂肪組織)の摘出
  • 骨盤内や大動脈周囲のリンパ節の切除(がんの広がりや患者さんの状態に応じて)

お腹の中の膜や周りの臓器にまでがんが広がっている場合には、目に見えるがんを完全に取りきることを目指して、可能な限り切除する、「初回腫瘍減量手術」を行います。腸管にまでがんが広がっている場合には、消化器外科に依頼して腸管切除を行い、場合によっては人工肛門の造設が必要となるケースもあります。

手術が難しい場合の対応

がんの広がりが大きく、すぐに手術ができない場合は、まず「試験開腹術」「審査腹腔鏡(腹腔鏡による確認手術)」を行い、腫瘍の性質や進行期を確認します。
その後、抗がん剤治療(術前化学療法)でがんを小さくしてから、改めて手術(中間腫瘍減量手術)を行うこともあります。

妊娠の可能性を残す治療

若い患者さんでがんが初期の段階であれば、将来の妊娠の可能性を残すために、腫瘍のある方の卵巣と卵管だけを切除して、子宮と正常な方の卵巣・卵管を残す、妊孕性温存にんようせいおんぞん手術」を選択することが可能です。

また、若い女性に発症しやすい「悪性胚細胞腫瘍」というタイプの卵巣がんでは、抗がん剤治療が非常に良く効くため、進行がんの状態であっても妊孕性温存手術が選択される場合もあります。

抗がん剤治療(化学療法)について

卵巣がんでは、手術の前にがんを小さくしたり、手術の後に再発を防ぐために、以下のような薬剤を使った治療を行うことがあります。

白金製剤 シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン
その他の抗がん剤 パクリタキセル、ドセタキセル、ゲムシタビン、リポソーム化ドキソルビシン、イリノテカン、ノギテカン
分子標的薬 ベバシズマブ、オラパリブ、ニラパリブ

放射線治療について

卵巣がんでは放射線治療はほとんど選択されませんが、限局した再発がんに対する治療や、がんによる出血や痛みを抑える目的で行われることがあります。

このように、卵巣がんでは手術療法と抗がん剤治療を効果的に組み合わせることが非常に大事です。患者さん一人ひとりの状態に応じて、最適な治療方法を選択していきます。

当院の治療の特徴

当院では、消化器外科や泌尿器科との連携体制が整っているため、卵巣がんが進行して腸や膀胱、尿管などに広がっている場合でも、必要に応じてこれらの臓器の合併切除を積極的に行い、可能な限り腫瘍を取り除く「腫瘍減量手術」を実施しています。

遺伝子検査による個別化医療の推進

進行卵巣がんの患者さんには、がん細胞の遺伝的な特徴を把握するための遺伝子検査を積極的に行っています。具体的には、以下のような検査を実施しています。

BRACAnalysis診断システム 血液を使って、遺伝性のBRCA遺伝子変異(gBRCA)の状態を調べる検査です。
myChoice診断システム 腫瘍組織を使って、BRCA遺伝子変異(tBRCA)やゲノムの不安定性(HRD)の状態を評価する検査です。

これらの検査結果は、治療薬の選択に役立てられ、より効果的な治療につなげることができます。
特に、PARP阻害薬という分子標的薬は、BRCA遺伝子に変異がある方やHRD陽性の方に効果が期待されており、進行卵巣がんでも長期生存が可能になるケースが増えています。