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甲状腺腫瘍に対する標準手術「頸部小切開MHM法(新Tori法)」 について

2026.1.13

内分泌甲状腺外科

甲状腺腫瘍(良性・悪性)に対する標準手術
「頸部小切開MHM*法(新Tori法)」 
 -切開創は片側2-3cmが標準です-

*MHMとは、“Muscle-hanging maneuver”の省略形です

甲状腺腫瘍(良性・悪性)の標準手術は、8-10cm程度の左右対称な頸部襟状切開を実施されることが一般的です。頸部に皺のない若い方の場合この創切開はかなり目立ち、心身ともにトラウマとなります。当科では、2011年以来整容性を向上する工夫に努め小切開型の手術を開発してきました。

一つの回答が、ハイブリッド型内視鏡手術HET(Tori法)でした。HETでは片葉切除で1.5-2.0cm、全摘で2.5-3.0cmの小切開を片側の頸部鎖骨上窩に置き、5mmの内視鏡Portをそれぞれ1ないし2カ所で鎖骨下に加える、というものでした。

しかし、ほぼ同時期に内視鏡を使用せず、従って内視鏡Portも挿入せず、術野と術式を工夫することにより、HETとほぼ同長(+0.5cm以内)の片側切開創で良悪性に関係なく(一部の除外基準を除く)、オールラウンドに手術が実施できることが判明しました。HETの経験を通常型手術にフィードバックして創長を極限に短くした今後の「甲状腺標準術式」、それがこの「小切開MHM法」(新Tori法)です。

他施設では大きな創で実施するのが当然となっている甲状腺手術をわずか2-3cm程度の切開創で実施する、ということは、はたして合併症などのリスクがないのか?(安全性)、あるいは癌の手術として不十分で生存率に影響するのではないか?(根治性)など、当然の疑問が発生します。

当科では小切開手術実施時(対象は原則45歳未満)は、神経刺激装置(時にはNIMシステム併用)で反回神経を確認する、マイクロ用器具、オリジナル深部結紮器やVSSという手術器具で、気管等への癌の浸潤部を切除する、あるいはリンパ節を根治的に郭清し血管・組織を確実に処理する、という上記懸念を払拭する方法を全例に実施しています。

2011年以来15年間に実施した小切開型手術(内視鏡HET+非内視鏡MHM)合計880例において、術中反回神経誤切断0(註:反回神経の損傷がなくとも挿管性麻痺等により声帯麻痺の可能性はあります)、術後出血0を達成し、また手術関連死亡=在院死亡=0%、長期成績においては、原病死0を達成しています。

一方、頸部に切開痕がなく代わりに前胸部に3-4cmの切開創を有するVANS法を、片側の良性疾患に限りご希望の方に実施しています(VANS法は悪性例に適応はありません)。

 

最後に

 

小切開MHM法は内視鏡手術ではありません。通常手術で短い創長を極めた方法で、そのメリットから、すべての施設で実施可能であるべき「標準手術」です。これから甲状腺手術を受ける患者さん(註:当科では45歳未満)におかれては、選択肢として求めるべき術式です。

参照用文献

(1)Tori M. Hybrid-type endoscopic thyroidectomy (HET: Tori’s method) for differentiated thyroid carcinoma including invasion to the trachea. Surg Endosc. 2014, 28(3), 902-909.
(2)鳥 正幸:甲状腺癌に対する内視鏡補助下手術(解説/特集) 日本臨床2017, 75巻増刊2 頭頸部癌学391-396.
(3)Tori M, Shimo T, Yoshidome K. Novel operative approach to double primary cancers of the breast and thyroid and its effects on cosmesis and the accuracy of follow-up  examinations. Asian J Endosc Surg. 2018, 11(2), 185-188.
(4)鳥 正幸:合併症0への甲状腺周術期対策 後出血・喉頭浮腫から高難度手術関連まで. 日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 2016, 33(1):17-21.
(5)鳥 正幸、吉留克英、下登志朗他:甲状腺内視鏡手術の至適術式と周術期管理(総説). 大阪警察病院医学雑誌 2018, 34, 7-12.
(6)鳥 正幸、下登志朗、安野佳奈他:甲状腺内視鏡手術現状と展望~Tori法の標準化~(総説). 大阪警察病院医学雑誌 2020, 36, 7-10.
(7)鳥 正幸、下登志朗、柳川雄大他:頸部小切開Muscle-hanging maneuver (MHM:新Tori法)のテクニック 大阪警察病院医学雑誌 2025, in press