学会報告記を公開しました(米国リウマチ学会)
2025.11.21
総合診療科 板金 正記先生よりACR(米国リウマチ学会)参加の報告記が届きました!
このたび、アメリカ・イリノイ州シカゴで開催された ACR(American College of Rheumatology:米国リウマチ学会)に、総合診療科の板金が招待参加する機会をいただきました。
ACR はリウマチ学会の中でも世界最大規模の学会であり、各国からリウマチ・膠原病領域の専門医(Rheumatologist)や研究者が集まります。
総合診療科として日々、内科全般を診療しながら、リウマチ・膠原病も地域でカバーできる総合診療医の育成を目指しています。今回の学会参加で得られた学びを、患者さんの診療と若手医師の教育にしっかりと還元していきたいと考えております。
1.伊丹からシカゴへ
今回は伊丹空港から成田空港経由で、シカゴへ向かいました。

日本との時差は約14時間で、ほぼ昼夜が逆転する感覚です。
約12時間のフライトでシカゴ・オヘア国際空港に到着し、ダウンタウンまでは CTA という電車で向かいました。車窓から眺めるシカゴの街並みは迫力があり、映画の撮影にも使われるという話がよくわかる風情でした。高層ビルが立ち並ぶ一方で、歴史ある建物も多く、歩いているだけでも楽しめる街です。
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気温は、日本でいうと紅葉の季節にあたるくらいで、厚手のコートがなくても過ごせる程度でした。
2.ACR 会場に到着
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学会会場は、シカゴにある大規模コンベンションセンター McCormick Place でした。広大な会場内には多数のセッション会場やポスター会場があり、世界中から集まった医師・研究者が早朝から夕方まで熱心に議論を交わしていました。
「さすがアメリカ」と感じるスケール感で、リウマチ・膠原病領域の発展の勢いと国際的な広がりを肌で感じることができました。
3.Image Competition 受賞について
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今回、私が応募した自己炎症性疾患に関する症例画像が、学会の “Image Competition” というセッションで East Asia & Pacific 地域の Winner に選ばれました。Image Competition は毎年テーマが決まっており、今年のテーマは「自己炎症性疾患」でした。 Winner に選ばれると学会参加費が免除されるという特典があり、海外学会参加費が年々高額化している中で、大変ありがたい制度です。 自己炎症性疾患は、診断・治療ともに難しい場面が多い一方で、うまく診断と治療がかみ合うと、患者さんに大変喜んでいただけることの多い領域です。日々の診療で出会う患者さんのおかげで得られた機会であり、この経験を糧に、今後も診療と研究に取り組んでまいりたいと思います。 |
4.学会で印象に残ったトピック
発表後は、Scientific Session(口演)に参加したり、ポスター会場を歩いて回ったりと、非常に勉強になる時間を過ごすことができました。現地参加だけではすべてのセッションを聴くことは難しいため、帰国後も年内いっぱいオンデマンド配信を活用しながら、学びの整理を続けています。
その中でも、日常診療に直結し、患者さんや地域の先生方にお伝えしたいと感じたトピックをいくつかご紹介します。
1.SLE(全身性エリテマトーデス)の臓器別治療ガイドライン
SLE は、腎臓・中枢神経・皮膚・血液など、全身のさまざまな臓器に炎症を起こしうる自己免疫疾患です。今回のACR では、臓器ごとに治療方針を整理した新しいガイドラインが示され、患者さん一人ひとりの病状に応じた、よりきめ細かな治療選択が可能になる内容が提示されました。
2.GLP-1 受容体作動薬と変形性関節症(OA)
もともと糖尿病や肥満症の治療に使われている GLP-1 受容体作動薬が、膝や股関節などの変形性関節症に対してどのような効果を持つか、という研究が報告されました。体重減少による関節への負担軽減だけでなく、炎症を和らげるような作用も示唆されており、内科的な薬剤が運動器疾患の治療にも関わってくる可能性を感じました。
3.シェーグレン症候群と唾液中の抗体
口の渇きや目の乾燥を主症状とするシェーグレン症候群について、唾液中の抗体を利用した新しい診断・評価方法の検討が紹介されました。将来的には、採血だけでなく唾液を用いた、負担の少ない検査法が実現する可能性があり、病勢の評価や経過観察にも役立つツールとなりうると期待されています。
4.CAR-T 療法をはじめとする新しい免疫療法
血液がんの治療として知られる CAR-T 療法(患者さん自身の免疫細胞を改変して病気の原因を攻撃させる治療)を、自己免疫疾患に応用しようとする試みも報告されていました。まだ研究段階ではありますが、既存の治療でコントロールが難しい難治性のリウマチ・膠原病患者さんに対して、将来的に新たな選択肢となる可能性があり、今後の進展が注目されます。
5.シカゴ観光
観光の時間は、全体を通して2時間ほどしか取れませんでしたが、世界最大級といわれるスターバックスを覗いてみたり、「豆の雲(Cloud Gate)」と呼ばれる有名なオブジェを見に行ったり、早朝の湖畔で朝日を眺めたりと、シカゴの空気を少しだけ味わうことができました。
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6.当院での診療と総合診療医の育成に向けて
当院総合診療科では、多様なリウマチ・膠原病の患者さんの診療にも携わっています。今回の ACR で得られた最新の情報をもとに、これまで以上に意識し、患者さんにとって安全で質の高い医療を提供できるよう努めてまいります。
同時に、「地域で活躍できる総合診療医が、リウマチ・膠原病も一定程度カバーできること」を目標として若手医師や研修医の教育にも力を入れていきたいと考えています。
7.地域の先生方へ
地域で診療にあたられている先生方におかれましては、
| 不明熱 |
| 関節痛や朝のこわばりが続き、関節リウマチなどのリウマチ性疾患か判断に迷う症例 |
| 抗核抗体陽性などから膠原病が疑われるものの、どこまで精査・治療を進めるべきか悩ましい症例 |
| 発熱、肺病変・腎障害・皮疹など多臓器にまたがる病態があり、全身を見ながら方針を整理したい症例 |
| 既存治療でコントロールが難しく、次の一手を一緒に検討したい症例 |
などがございましたら、どうぞお気軽にご紹介・ご相談いただければ幸いです。学会で得た知見も共有しながら、地域全体でリウマチ・膠原病診療の底上げができればと考えております。
8.おわりに
このような貴重な機会を与えてくださった病院関係者の皆様、不在中も診療を支えてくださったチームのスタッフの皆様に、心より感謝申し上げます。 今後も、国内外の最新情報を積極的に取り入れながら、患者さんに「ここで診てもらえて良かった」と思っていただける総合診療・リウマチ膠原病診療を目指し、日々研鑽を続けてまいります。











